iMacにはApple純正の有線あるいはワイヤレスのキーボードがついてきます。
このキーボード、iMacの本体に負けず劣らず薄型で、とても使いやすいと評判です。
コンピュータを日常的に使うものにとってキーボードは自分の手足のように思い通りに操作したいもの。もちろん私にとってもApple純正キーボードはとても使いやすいものなのですが、それでもより使いやすいキーボードがあるのであればそれはぜひぜひ試してみたいと常々思っております。一日10時間以上触れているものですしね。というわけで、家電量販店などに行く度にキーボードコーナーへ立ち寄り、よさそうなキーボードが出ていないかチェックしたりしてみるわけです。
ただApple純正がそもそも使いやすいということもあるのか、mac向けのサードパーティ製キーボードというのがWindowsのそれと比べて多くないんですよね。
そんな中、私は最近PFUのHappy Hacking Keyboard Lite2 For Macというキーボードがよさそうだと思い購入しました。
PFUというと、Happy Hacking Keyboard(HHKB)シリーズのハイエンドモデルが有名です。お値段も2万円を超えて、欲しいなあとは思うけどなかなか手がでない。触って見たことがある方ならわかると思いますが、キーを押下したときの心地よさが他のキーボードとは圧倒的に異なり、ただ闇雲に高いというわけではないのですがお財布事情なども考えるとやっぱり高嶺の花。
一方、このHHKB Lite2はHHKBの好感触をある程度再現しつつ、それでいてかなりお値段もリーズナブルという代物です。打鍵感もとてもいい。気持よくキーボードを打てる気がしているし、そして打ち間違えなども減っている気がする。
そしてこのキーボードをしばらく使ってみて、かなりいい感じだということは直感的に実感してはいるのですが、じゃあこれが今まで使っていたApple純正のキーボードと比べてどれくらいいいものかを知りたいと思うに至りました。なんとなくいい感じであったとしても、実はそれはただの気分の問題だけで、実質Apple純正の方が良かったなんてことがあったりしたらそれは損ですしね。
別途お金を出したからサードパーティ製の方がいい、という理由はどこにもないのでちゃんと比較をして、より良い方を使い続けたいです。
そこで今回、この2つのキーボードの比較を行ってみようと思います。
キーボードの打鍵感に影響を与える構造的特徴
比較を行う前に、まずはざっとキーボードの打鍵感とか打ちやすさに影響する要素を説明しておきたいと思います。キーボードと一口に言っても、中の構造にはいくつか種類があり、それぞれ特徴を持っています。
メンブレン方式
メンブレン方式のキーボードというのは、キーボードのキー側と土台側にそれぞれ1枚ずつ導電シートが配置され、キーが押されたときに2枚のシートが重なることで通電し、その場所によって押されたキーを判別する方式です。
この方式は、大きなシートを2枚用意するだけでいいのでコストが低く抑えられ、多くのキーボードで取り入れられている方式です。
また、キーの押し戻しの反発力はゴム(ラバードームと呼びます)によって作られております。
ラバードームのコストも低く抑えられるので、メンブレン方式の多くのキーボードは全般的に価格が抑えられ、購入しやすいものが多いです。
今回私が購入したHHKB Lite2もこのメンブレン方式です。
メンブレン方式は価格が安く抑えられる一方、一つ大きな欠点があります。それは、「キーを打ち込む角度によっては、キーの押下にひっかかりを感じる」ということです。
細かいメカニズムは省略いたしますが、メンブレン方式のキーボードは、キーの真ん中をきちんと押した際にはなんの問題もないのですが、キーのすみをおした時にまっすぐにキーが下りず、引っ掛かりを感じてしまうことがあります。これは構造の特徴によるものです。
パンタグラフ方式
パンタグラフ方式のキーボードというのは、キー側と土台側に導電シートが配置されるという点ではメンブレン式と同じです。したがって、パンタグラフ方式もメンブレン方式の一部であると考えることができるのですが、メンブレン方式と違う点は、キーの押し戻しの部分がラバードームではなく「パンタグラフ」式になっているという点にあります。
これにより、キーのすみを押した時でもまっすぐキーが下りていき、引っ掛かりをなくすことができます。
Apple純正はこのパンタグラフ方式です。
パンタグラフ式のキーボードは、比較的薄く、押した感覚がとても軽いものが多いです。
メカニカルスイッチ方式
メカニカルスイッチは、キーそれぞれの中にスイッチが内蔵されています。
そのため、押した時にスイッチが「カチカチ」と音を立てる独特の打鍵感を生み出し、これを好む人も多いです。反発力はスプリングによって作られ、これも独特の感覚を生み出します。
「あ、キーを打っているなあ」という感覚が一番感じられるのはこのメカニカルスイッチ方式かもしれません。
ただ、各キーにスイッチが入っているため、コストは比較的高くなります。
静電容量無接点方式
メンブレン方式の「接地」「非接地」やメカニカルスイッチの「オン」「オフ」などの物理的な接触とは異なり、キーを押下したときのその部分の電荷の変化を捉えて、キーが押されたか否かを判別する方式です。
つまり、キーを一番下まで下げなくても押されたことが判別されるため、非常に軽いキータッチが実現できるのです。
PFUのHHKB Professionalなど、ハイエンドモデルのキーボードはこの方式を採用しているものが多いです。
打鍵感としては別格ですが、価格も別格です。
2つのキーボードを比較するための基準
さて、ざっとキーボードの種類について説明したところで、いざApple純正キーボードとHHKB Lite2の比較に参りましょう。
比較を行うためには、比較を行うための基準が必要です。
本当であれば「打鍵感」みたいなものもとても重要になってくるとは思うのですが、こういう主観的な感覚は比較しづらいので、
・1分間にどれだけのワードを打てるか(WPM)
・ある文章をどれだけミスなく打てるか(正解率)
と基準とすることにします。
他にもたくさん基準はあるかもしれませんが、少なくとも仕事でかなりの量のタイプをする私にとっては、スピードと正確性がキーボードの質を決めるのに非常に重要な点であり、これはおそらく他の皆様も似たような感じなのではないかと思うからです。
あとは何より客観的に測定しやすい。
いざ比較
対決の舞台
対決の舞台は、
のタイピングサイト。
こちらではWPMと正解率を出してくれるので、それを利用します。
対決の条件
対決の条件です。どちらかが有利になるような条件では意味がないので、なるべく条件がそろうようにしました。
先のタイピングサイトで、「長文」カテゴリを選択すると、ある程度の長さの長文がランダムに出現します。それをそれぞれのキーボードでタイプしていきます。
「慣れ」の問題を排除するために、まずは最初にそれぞれのキーボードで10回ずつ練習をしました。もちろんこれは成績にカウントしません。
そして、本番では、Apple純正、HHKB Lite2で「交互に」10回ずつ課題をタイプしました。
つまり、総計20の課題をこなします。
交互にタイプするので、どちらかのキーボードに偏って慣れが生じることはありません。
課題はランダムに10題ずつ出ます。重複の問題や入力文字数の違いなどは生じますが、それは10題ずつこなすなかで平均化されるはずです。
そして各問題のWPMと正解率を記録していきます。
結果
ご覧のとおり、WPM、正解率ともにHHKB Lite2の方が上回っています。
一応統計的検定(統計的に2者の間に差があるかを確認する作業です)を行いましたが、有意水準5%で帰無仮説(両者に差はない)は棄却されました。
簡単に言うと、両者には統計的にも差が認められ、HHKB Liteの方がWPM、正解率ともに上回っているという結果だったということです。
実際に課題をしている最中は、キータッチが軽い分パンタグラフ方式のApple純正キーボードの方がいいのかな、と思ったりもしたのですが、軽い分ミスも多かったということがわかりました。
また、ずっと課題を打ち続けて、後半に入って疲労がたまってきたときにミスが少なかったというのもHHKBの特徴かなあと。Apple純正と比べてキーの押し込みにある程度重みがある方がミスを誘発しにくいということがあるのかもしれません。
結論
というわけで、今回HHKB Lite2の方が成績が良かったので、今後はこちらを使い続けることにします。
本当ならメカニカルスイッチ式や最高級の静電容量無接点方式とも比較してみたいですが、それはお財布に余裕が出てきたときにあらためて。
さいごに
今回は私一人での個人内比較ですので、今回の結果がみなさんにそのまま当てはまるとは言えないとは思っております。
やはりキーボードは感触とか打鍵感と呼ばれる「個人の感覚」も重要になってくるので、自分が好きだと思えるものを利用するのがひいてはWPMや正解率に影響を与えてくるはずです。
ただ、それを考慮したとしても、今回のHHKB Lite2はその値段と機能的に多くの人にオススメできると思っています。
とりわけ、「そろそろApple純正キーボードから別のものにしてみようかな」という最初のステップアップを考えている方、この先自分にしっくりくるキーボードに出会うまでには結構な経験が必要になってくると思うのですが、最初のステップとしてこのリーズナブルでそれなりに高品質を保っているものを選択するというのは悪くないのではないかと思っています。
みなさまの素敵なキーボードライフの一助になれば幸いです。